精神科の看護師についてあまり知らず、ただ漠然と「精神科の看護師は病む」というイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。
確かに、精神科と他の科では仕事内容や雰囲気など違うイメージがありますが、実際にはどのような違いがあるのでしょうか。
この記事では、精神科看護師について仕事内容や向き不向きなど、詳しくまとめていますので、本当に「病む」のか検証していきます。
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精神科の看護師とは?
精神科で働く人は、公認心理士や臨床心理士など、心理学に基づいた専門的知識で心の健康問題に対するアプローチを行う専門家とは異なり、医師免許を持つ精神科医と看護師資格を持つ看護師によって行われています。
内科や外科などの看護師であれば患者さんの介助や採血、処置などが主な仕事内容ですが、精神科の看護師はどのような仕事を行うのかイメージが持てない方も多いのではないでしょうか。
また、精神科を受診する患者さんは、他の診療科とは性質が異なり、それに伴い看護師の仕事内容も他の科とは異なります。そのため、「看護師資格以外に必要な資格や専門知識があるのではないか」と思っている方もいるのではないでしょうか。
ここでは、精神科の看護師として有利に働くための制度や、処置する患者さんの特徴について見ていきましょう。
精神看護専門看護師
精神科の看護師は看護師資格を保有していれば就くことができますが、より専門性を高めたことを認定する制度として「専門看護師」があります。
専門看護師は複数の分野に分かれており、精神疾患患者に対する専門性を高めた看護師を「精神看護専門看護師」といいます。
専門看護師制度とは、日本看護協会が日本看護系大学協議会と連携して運営しており、より複雑で解決が難しく難易度が高い看護問題を持つ方々に、レベルの高い看護ケアを提供するための知識と技術を極めた専門看護師を輩出して、看護業界の発展と向上を目的とする制度です。
精神看護専門看護師になるには、看護資格を取得した上で看護系大学院の修士課程を修了し、専門看護師教育課程に基づく単位を取得します。そして、一定の実務研修などを経験した後に認定審査をクリアしなければなれません。
精神看護専門看護師の認定を受けることによるメリットとしては、その分野において経験・知識が深まり、精神科にいなければ困る唯一無二の存在になれるため、今後のキャリアを確立することができるという点です。
また、資格手当が付き給与水準が上がるので、その分野を極めたい方にはおすすめです。
専門看護師の仕事内容は「実践・相談・調整・倫理調整・教育・研究」という6つの役割があり、より深く専門分野に特化した仕事をします。
さらに、対象の患者さんによって大きく2つに分かれ、精神疾患患者を対象とした看護師を「精神看護専門看護師」と呼び、身体疾患患者を対象にした看護師を「リエゾン精神看護専門看護師(リエゾンナース)」と呼びます。
精神科の看護師としてキャリアをスタートさせた看護師が5年〜10年勤務した後のキャリアステップの選択肢として考えられるでしょう。
どのような患者を受け持つ?
精神科を受診する患者さんは、うつ病や統合失調症などの精神疾患を抱えた患者さんが多くいます。
患者さんの中には自分自身が病気を患っている自覚がなく、診察によって病名を知らされることによってショックを受ける方もいます。
精神疾患患者の多くは子供から大人への過渡期である15歳以降に発症するケースが多いので、発症前の自分自身の印象が頭に残っており、現在の自分自身を受け入れるのが非常に難しい状態です。
精神障害には依存症や認知症、てんかんといった様々な精神疾患があり見た目では判断ができないため、一人一人の障害を理解して対応するのが難しい分野といえます。
日常生活に支障をきたしている患者さんは、精神疾患とともにメタボリック症候群や循環器系疾患、皮膚疾患や歯科疾患といった身体疾患を合併しているケースが多くみられます。
精神病薬の影響で体重や血糖値が増加したり、食欲が増進して食べすぎてしまうことが考えられます。
また、引きこもりや夜更かしといった生活の乱れや、症状のひとつである日常生活のセルフケアが「億劫」になり、風呂に入らず歯を磨かないことにより皮膚や歯に異常が発生する方も少なくありません。
精神科の看護師の役割としては、患者さんの話を聞き、適切な距離感を保ちながら「患者と医療者」という立場で関係性を築いていくことが重要です。
精神科看護師の仕事内容
精神疾患患者は年々増加傾向にあり、今後も増加していくことが予想されます。そのため、精神科看護師の需要は日々高まっています。
施設によりますが、他の診療科では患者さん一人一人に寄り添い、向き合う時間が少ないという声も少なくありません。精神科看護師は、主に患者さんとコミュニケーションを取ってメンタルケアを行いますので、一人一人の患者さんに寄り添った看護をしたい方にはおすすめです。
ここでは、具体的にどのような仕事をするのかみていきましょう。
医師の診療介助
他の科であれば処置が多く大変なイメージがありますが、精神科はそこまで処置は多くありません。診察室で医師に同席し、患者さんの状況を把握します。心の病であるため、患者さんの仕草や言動、行動を注意深く観察し、普段と変わりないか。ちょっとした変化に気付く観察力が求められます。
処置対応をすることがなく、看護師としてのレベルが下がると思われがちですが、身体疾患の合併も考えられるため、点滴や採血、血圧や脈拍などのバイタルチェックを行うこともありますので、看護師としての実務能力も必要です。
薬の管理・与薬
精神科の治療方法として最も重要なのが薬による治療です。
大半の患者さんは自らの意志で歩き、薬を受け取って飲むことができます。だからといって精神疾患患者に対しては薬を渡しただけで与薬したと思ってはいけません。
与薬の際に大事になってくるのは、目の前で薬を飲み込むところを見届けることです。患者さんによっては薬を飲み込むフリをして舌の裏に隠し、後で吐き出す方もいます。そのため、与薬しながら患者さんと会話をしてしゃべってもらうことによって確認するケースもあります。
時には薬を飲み込むフリをして薬を溜め込み、後で大量に摂取することで自殺を図ろうとする人もいるので、患者さんの健康管理だけでなく、安全管理も行わなければなりません。
セルフケア介助
セルフケアは、健康を維持するための自己管理を意味し、それをサポートするのも看護師の仕事のひとつです。患者さんはADLの低下により日常的に必要なことができない可能性がありますので、それを援助することで、健康の維持・増進をします。
ADLとは、Activities of Daily Livingの略で、「日常生活動作」といいます。
日常生活を送るうえで最低限必要な日常的な動作は、睡眠や運動、入浴や歯磨きなど、心身ともに健康な人であれば当たり前のようにできることです。しかし、精神疾患患者の場合、看護師の援助なしでは行えないケースがありますのでそれを援助することは、患者さんの生命や健康を守る大事な仕事といえます。
セルフケアができない患者さんの看護計画を決めるうえで重要になってくるのが、しっかりとした
看護目標を定めることです。患者さんの最終的なゴールは一人でセルフケアができるようになることなので、最終的に自立できるように指導、教育していくことが必要不可欠です。
レクリエーションの実施
患者さんにとってのリハビリといえばレクリエーションではないでしょうか。
レクリエーションを通じて人との触れ合いの場や楽しいという感覚を得ることで、生活リズムの改善、コミュニケーションの活性化、体力の回復、精神的安定といったプラスの効果が期待できます。
これは、患者さんが意欲的にセルフケア能力を高めるために有効な方法であり、患者さんと看護師間や他の患者さんと交流して人間関係を構築し、関係性を高められます。
レクリエーションのイメージとしては、安全面を配慮した物作り、ペットボトルボーリングや新聞紙などを使用した魚つりゲーム、七夕やハロウィン、クリスマスなどの季節感を出したイベントが挙げられます。
患者さんのケアのみならず、些細な行動の変化に気付くことができるので、精神科にとって重要な仕事のひとつといえるでしょう。
精神科看護師の1日の業務
他の診療科に比べると処置などの医療行為が少ないという特徴がありますが、実際にどのようなスケジュールで業務しているのかイメージが湧かない方も多いのではないでしょうか。
ここでは精神科看護師の1日の業務スケジュールを例でご紹介します。
病棟勤務 日勤の場合
・8:00 申し送り
夜勤担当看護師から患者さんの前日の様子や感じたこと、業務内容の申し送りを受けます。
・9:00 患者さんのケア
体温や血圧、脈拍などのバイタル測定、点滴、与薬、検査介助など患者さんに応じた処置や看護を行います。
・11:30 昼食介助、見守り
食事中に誤嚥などがないか見守ります。
・12:00 昼休憩
交代で休憩を取ります。
・13:00 患者さんのケア、アセスメント
与薬や内服チェックを行いながら患者さんとコミュニケーションを取り、些細な変化がないか確認します。
・14:30 入浴介助
セルフケア能力の程度に応じて介助します。
・16:00 記録
看護記録を作成します。
・16:30 申し送り
夜勤担当看護師に申し送りをします。
・17:00 終業
このように、1日のスケジュールは詰まっており、医療行為が少ないからといって時間が余っているわけではありません。特に業務の中で注意しなければならないのは昼食介助や与薬、内服チェックです。
配膳された食事をまとめて口に入れてしまう患者さんは多く、窒息する可能性があるため、気をつけなければならず、指摘しすぎるのもその人の考えを尊重していないと思われるので気を使わなければなりません。
最新の注意を払いながら患者さんと関わり、コミュニケーションを取って心のケアをするのがポイントです。
また、施設によっては午後の時間を使いレクリエーションを行うケースもあります。
患者さんと一緒に取り組むことで、患者さんのアセスメントに繋がることもありますので、楽しみながらも観察を続ける必要があります。
病棟勤務 夜勤の場合
・16:30 申し送り
日勤担当看護師から申し送りを受けます。
・17:00 準備
採血や与薬の準備をします。
・18:00 夕食介助、見守り
食事中に誤嚥などがないか見守ります。
・18:30 ラウンド、ケア
バイタル測定、検査データチェックなどを行います。
・19:00 休憩
交代で休憩を取ります。
・20:00 就寝前ケア
おむつ交換や眠前薬の確認などをします。
・21:00 消灯
病室を消灯します。
・2:00 仮眠
夜明けに向けて仮眠を取ります。
・6:00 点灯
病室を点灯します。
・7:00 朝食介助、見守り
食事中に誤嚥などがないか見守ります。
・8:30 申し送り
日勤担当看護師に申し送りを伝えます。
・9:00 終業
夜間は患者さんの自殺リスクなどが高まるため、頻繁にラウンドを行い、毎日時間をずらしながら巡回することでリスクを最小限に抑えるなどの工夫をします。夜間にぐっすり眠っている患者さんの姿を確認し、安心して業務を行えるよう日頃からケアに努めているのです。
精神科看護師の役割
1日の業務スケジュールを見る限り、仕事内容は他の科とさほど変わらないように感じる方も多いのではないでしょうか。
ここでは、主に精神科看護師が担う役割についてご説明します。
患者の心のケア
精神科看護師の重要な要素のひとつと考えられるのは、患者さんとコミュニケーションを取り、良い関係性を築くことで心理的ケアを行うことです。
精神疾患患者の治療法として有効なのは薬による治療ですが、自分自身が病気である自覚がない患者さんが多く、全員が率先して服薬するとは限りません。
服薬を拒否された時に「この看護師さんの言うことならちゃんと聞いておこう」と思われる関係性を構築できているかどうかでその後の治療に大きく影響するので、日頃から患者さんとの適切な距離感を保ちつつ関係を築くことがケアの一環になるでしょう。
コミュニケーションは検温や与薬の際に患者さんと会話をすることから始まります。
患者さんが自ら話し始めた場合はしっかりと話を聞き、「話を聞いてくれる人だ」と思われることで関係性を築きます。
また、中には俯いたまま話をしない方もいますし、「別に。。」と自ら話をしたがらない方もいるので、無理に質問を続けるのではなく、今は会話するタイミングではないと引いてあげることも大事です。
看護師としては、元気がない患者さんを見ると何かあったのかと心配になり声をかけたくなる気持ちはわかりますが、話しかけ続けた結果相手が暴れてしまうこともありますので、慎重に様子を見なければなりません。
しかし、ただ話を聞いているだけでは妄想を抱かせてしまったり、肯定してくれたという思い込みにより医師に反発してしまうケースもあるので、あくまでも医療者と患者の立場をわきまえたうえでコミュニケーションを取ります。
人と人の関係性に答えはありませんが、少しずつ信頼関係ができてきて、回復の兆しが見えたときには、やりがいを感じられるのではないでしょうか。
患者の容体を把握
患者さんとの日頃の会話から少しの変化に気付いたり、患者さんの容体を把握することも精神科看護師の役割です。精神疾患患者は自分自身が悩んでいる症状をうまく自分の言葉で伝えることができないケースがあります。そのため、日頃の言動や行動を注意深く観察し、少しの変化やサインを逃さないことが重要です。
普段は「腕が痛い」と言っている患者さんが「お腹が痛い」と言っていたら、その旨を医師に伝え検査を行ったり、精神疾患に対する薬には便秘の副作用があるものが多いので、排泄回数を把握するなど、普段のバイタル測定や体重測定も重要な要素といえるでしょう。
日常的なセルフケアの援助
精神的な疾患や障害によりセルフケアを十分に行えない場合、看護師によるケアが必要になります。日常的なセルフケアの援助は不十分を補う側面がありますが、目的としてはセルフケア能力を回復させることにあり、これ以上の能力低下を防止させ、維持向上させるための働きかけが重要です。
セルフケアにはいくつかの領域があり、呼吸や水分、食物の摂取、便や尿などの排泄、体温維持や身体の清潔維持、運動や仕事などと適度な休息、睡眠バランス、孤独とのバランスを考えた対人関係の維持、自傷行為などの安全を保つ能力の維持向上など、多岐にわたります。
その患者さんのセルフケア能力を把握し、ケアレベルに合わせた計画を立てます。
ケアレベルとは、患者さんにどの程度のケアを行うのか示したもので、全介助、部分介助、声かけ指導、教育指導・指示、自律などのレベルのことです。
急性期の患者さんは症状が重く、薬を使用しつつどのようにセルフケア能力を向上させ、自己管理できるようにするのかが課題です。はじめのうちは援助が多かったものの、症状が改善するにつれてセルフケア能力も回復していくので、段階に合わせて日常生活の自立、最終的には社会復帰が可能となるセルフケア能力の向上を目指します。
与薬
薬による治療は、精神科においては主流となる治療法で、与薬は看護師にとって重要な役割といえます。
与薬は日々行う業務なので、気付かない内にただの作業になってしまいがちです。作業になってしまったがために与薬する患者さんを間違えてしまうというケアレスミスが発生しないように、日付や氏名など、その都度しっかり確認し、目視と口頭確認によってミスを防止しましょう。
他の科にも言えることですが、精神科の患者さんはそれぞれ病名や症状、性別や年齢、性格など、すべて異なります。そのため、一人一人に合った内服介助を適切に行わなければなりません。
中には、薬を拒否して中々飲み込もうとしない患者さんもいますので、口に含んで飲み込むまで見届ける必要があります。
また、患者さんはちょっとした変化に敏感で、時間の変化などを嫌う傾向にあるので、毎日薬を持っていく時間を合わせるなどの工夫をします。
精神科外来では、徐々に注射で薬を投与するケースも増えてきましたが、点滴による治療は行わない施設が多いです。チューブや針などの医療器具による事故や自殺の可能性が考えられるためです。薬を溜め込んで自殺をしようとする患者さんもいますので、「薬を飲んでもらうだけ」と安易に考えず、患者さんを注意深く観察しながら与薬を行いましょう。
精神科看護師の給料は?
精神科にも急性期や慢性期、回復期といったステージに合わせた病棟があります。急性期だからといって、自ら命を絶つ危険性はあるものの、命の危険に直面している患者さんは少なく、医療行為があまりないため肉体労働が少ないのが特徴です。
そのため他の科よりも楽なイメージがあり、「給料が安いのではないか」と考える方も多いのではないでしょうか。
結論から申し上げますと、精神科看護師の給料は、他の科と変わらず平均年収は325万円〜450万円です。施設によって夜勤の有無が異なり、大病院やクリニックなど施設規模、経験年数によって違いがあることから、正確な金額を表すことは難しいでしょう。
看護師の募集要項を見る限り、正社員であれば初任給が27万円スタートで、経験年数を重ねるにつれて給料が上がり、15年以上の経験で37万円程度にまで上がることが予想されます。
他の科とはさほど給料が変わらず、残業は少ない傾向にありますが、夜勤の機会が多いため、夜勤手当てが多く発生します。また、特殊手当という手当が支給される施設がありますので、結果的に他の科と給料が変わらない結果となっています。
パート・アルバイトの募集であれば時給1,300円〜2,100円であるケースが多く、子育てや育児との両立や子育てから仕事復帰するキャリアプランとしてパート・アルバイトを検討してみてもいいかもしれません。
精神科看護師になるには資格は必要?
ここまで精神科看護師として働く上で知っておきたい仕事内容や患者さんの特徴、給料について説明してきましたが、これから精神科看護師を目指す方にとっては具体的にどのようなステップを踏めばいいののかよくわからない方もいるのではないでしょうか。
精神科看護師になるために必要な資格としては
- 正看護師
- 准看護師
が最低限必須の資格になっています。
それぞれの違いについてみていきましょう。
まず、正看護師は「国家資格」なのに対し准看護師は「都道府県が発行する資格」であり、国家資格ではないという点が異なります。資格取得要件についても、正看護師は高卒以上、准看護師は中卒以上で受験資格を得られます。
資格取得方法については、正看護師は3年以上の短大・専門学校、4年制大学を卒業し、国家試験に合格することで取得できます。准看護師は2年間の養成学校を卒業後、認定試験に合格することで取得可能です。
勉強の内容については、正看護師の方が広く深い内容を学ぶため、知識面においては准看護師の方が習得できる内容は少ないです。ただし、受験資格、学歴、学費、試験内容においては准看護師の方が難易度が低いので、短期間で資格取得を目指したい方や仕事をしながら勉強したい方、出費を抑えたい方にはおすすめです。
どちらの資格についても求人があれば施設の種類や規模に関係なく働くことは可能ですが、准看護師の方が求人数は少なく、携われる仕事の範囲が狭かったり、給与水準が低かったりと、正看護師と比較すると見劣りしてしまう面もあるので、今後の自分自身のキャリアプランを考えたうえで取得を目指しましょう。
精神科看護師では一般病棟の資格やキャリアは使えない?
他の科とは仕事内容が少し異なる精神科に転職を考えている看護師にとって、今まで培った経験を活かすことはできないのでしょうか。
そんなことはありません。活かすことは十分に可能だと思います。
どのような点が活かせるのか詳しくみていきましょう。
精神科の仕事内容に患者さんのケアがあります。
患者さん一人一人を巡回し、コミュニケーションを取りながらいつもと変わった様子がないか、少しの変化に気付けるように観察します。入院病床がある病棟勤務であればラウンドは業務として当たり前に行いますし、その中で患者さんのちょっとした言動や行動の変化に気付けるように接しているはずです。病状に変化があった際に即座に処置を行なうこともあるでしょう。
これは、精神科看護師として働くうえで強いアピールポイントになります。
精神科看護師は比較的夜勤が多いと言われています。病棟勤務で夜勤を経験したことがある看護師であれば、夜勤の上手な乗り切り方を熟知しているので、心身ともに調子を崩すことなく業務をこなせるという点だけでも今までのキャリアは活かせているといえるでしょう。
また、
- 音楽療法士
- アルマセラピー学会 認定臨床看護師
- 認知症ケア指導管理士
- 認知症ケア専門士
- 認証心理士
など、精神科の分野以外にも活かせる資格は多くあります。
さらに「認定看護師」や「専門看護師」として認定を受けた看護師であれば、それがたとえ精神科と直接関係がある分野でなかったとしても他の看護師より知見が広いため、それを仕事に応用することができます。精神疾患患者の多くは身体疾患を合併しているケースが多いので、精神疾患に関する知識があるだけでは知識・経験ともに不足しており、より幅広い知識を持った看護師が現場に求められています。
精神科看護師になるメリット・デメリット
これまで精神科看護師は他の科とは仕事内容や得られるスキルが少し異なることを説明してきました。精神科看護師として働くうえでどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
精神科看護師のメリット
メリットは次のようなものがあります。
- 一人一人の患者さんに寄り添った看護ができる
- コミュニケーション能力、観察力が身につく
- 残業が少ない
- 夜勤が比較的楽
- 職場の人間関係で悩むことが少ない
一人一人の患者さんに寄り添った看護ができる
精神疾患は完治が難しく、症状が安定したという判断に至るまで時間がかかりますので、長期間通院や入院する患者さんが多くいます。そのため、必然的に患者さんと過ごす機会が増え、長期に渡って患者さんに寄り添った看護を行えます。
また、施設によっては治療の一環としてレクリエーションなどを通じて患者さんと関わることができるので、患者さん一人一人の様々な姿を見られることも魅力の一つと言えるのではないでしょうか。
コミュニケーション能力、観察力が身につく
最初の頃は下を向いて積極的に会話をしてくれなかった患者さんも、看護師が日々のラウンド、与薬といった業務を行う中で、患者さんの少しの変化を察知しながら会話をしてコミュニケーションを取ることで、「この人になら話してみようかな」という気持ちになり、症状の回復に向けて一歩前進するケースもあります。
患者さんから「ご飯を大盛りにしたいんだけど、ダメかなぁ」と雑談のような要望がでるようになれば、コミュニケーションをしっかり取れているといえるのではないでしょうか。
また、精神疾患は身体疾患とは異なり、バイタル測定などの日々の検査によって症状の変化に気づきにくい分野です。あくまでも患者さんの精神状態によって症状が変化するので、常に患者さんを観察し、普段と変わりがないか注意を払う必要があります。そのため、他の科よりも観察力が身につきやすいです。
患者さんとのやり取りの中で少しの変化やちょっとした引っ掛かりに気づいたら、すぐに医師にその旨を報告するように心がけましょう。
残業が少ない
精神科にも急性期がありますが、患者さんが緊急搬送されたり、緊急入院するケースはほとんどありません。また、医療処置などの頻度も高くないため、日々の業務時間を超えて過剰に仕事をするケースは考えにくいです。そのため、ライフワークバランスを保って働きたい方や、子育てとの両立をお考えの方にはおすすめです。
夜勤が比較的楽
施設によりますが、救急や急性期に特化している病棟でなければ、他の科と比べると緊急対応が少なく、時間の流れもゆったりとしているので仮眠がしっかり取れたり、心身ともに多少の余裕がある分、他の看護師さんと和やかに過ごすことができるでしょう。
しかし、救急や急性期に特化し、24時間患者さんを受け入れているような施設の場合、他の科とあまり変わらない可能性があるので、事前に施設の特徴を調べておくことをおすすめします。
職場の人間関係で悩むことが少ない
看護師業界は女性がメインであり、女性特有の人間関係トラブルが多いことは看護師として働いた経験がある方であればご存知の事実ではないでしょうか。精神科で勤務する看護師は、男性比率が高く、女性特有の人間関係トラブルに悩まされる機会は少ないです。
また、男性が看護師として働く場合に、女性が多い職場にうまく溶け込むことができないという悩みも聞きます。精神科看護師は男性比率が高いという点で、男性看護師にとっても働きやすい環境といえるでしょう。
精神科看護師のデメリット
デメリットは次のようなものがあります。
- 一般的な看護スキルが習得しづらい
- 精神的負担が大きい
- 暴言や暴力のリスクがある
一般的な看護スキルが習得しづらい
他の科に比べると医療行為の機会が少ないため、処置を経験することができず、最新の医療機器に触れる機会も少ないので、看護スキルを身につけることは難しいです。
ただし、精神疾患患者は身体疾患を合併しているケースが多いため、今まで他の科で経験してきた看護スキルを活かすことは可能です。
精神的負担が大きい
普段の生活を行う中で、あまり元気がなく、常にネガティブで過ごしている方とともに過ごしていると、自分自身も精神的に参ってしまうという経験をされた方もいるのではないでしょうか。
精神科の患者さんの大半は精神的に不安定です。そのような方々を看護することが、精神的負担を大きくすることは、可能性として大いに考えられます。最悪の場合、自殺現場に遭遇する可能性もあるのである程度の覚悟は必要です。
暴言や暴力のリスクがある
精神疾患を抱えている患者さんは、いつどのような状況で感情のトリガーが作動するかわからないケースが考えられます。日常会話をしようとしただけでも、患者さんにとっては精神的ストレスがかかり急に暴れ出してしまい、暴言や暴力を受ける可能性もあります。男性看護師が多いとはいえ、このようなリスクがあることは承知のうえで精神科看護師を目指すのが賢明です。
精神科看護師に向き不向きな人の特徴
「病気や死を見るのが精神的につらい」「血を見るのが苦手」といった理由で看護師を諦める人や、「看護の仕事は好きだけれど、昔から病弱で体力的に厳しい」「夜勤が体に合わず体調を崩してしまった」など、実際に看護師として働いてから自分に向いてないのではないか。と感じる方もいるのではないでしょうか。
精神科看護師の向き不向きについてみていきます。
精神科の看護師に向いている人
精神科の看護師に向いている人は下記のような人です。
- 責任感が強い
- 世話好きで人と話すことが好き
- 根気強い
- 気持ちの切替が上手
精神科に限らず看護師は人の命に関わる仕事で、それを自覚し責任を持って業務できる人が看護師に向いているといえます。
日常業務の中で、患者さんとのコミュニケーションやセルフケア介助を日々行うので、世話好きで人と話すことが好きでない人でなければ苦に感じてしまうでしょう。また、精神疾患は時間をかけて回復していくものなので、患者さんと向き合い、根気強く取り組まなければなりません。
患者さんの中には、突然暴れ出したり暴言を吐く方もいますし、自殺を図って死亡してしまうケースも残念ながらゼロとはいえません。その都度落ち込んでいるようでは自分の身が持たないので、気持ちを前向きに切り替えられるマインドコントロールが得意な方は精神科の看護師に向いているといえるでしょう。
精神科の看護師に向かない人
逆に、精神科の看護師に向かない人の特徴は下記のような人です。
- コミュニケーションが苦手
- 精神的ストレスに弱い
- いつまでも引きずる
患者さんの介助や会話をメインにする仕事なので、人と話すことが苦手だったり、人に触れるのが苦手な方には看護師は向かないでしょう。
日々、精神的にネガティブな患者さんと過ごすことで自分自身もネガティブになってしまったり、患者さんから暴言や暴力を受けた時にいつまでも引きずって落ち込んでしまったりする方には向いていません。
そのような方は転職をおすすめします。「自分は向いていない」と思う科にずっといると、精神的にやられてしまい、うつ病になることもあります。そうなってしまってからでは遅いので、今のうちに転職活動を始めましょう。
精神科看護師あるある
精神科看護師として働いている方々にはどのようなあるあるがあるのでしょうか。
詳しくみていきましょう。
やりがいがある
長期的な看護ケアによって患者さんの症状が徐々に回復し、笑顔が見られた時には精神科看護師として仕事を続けて良かったとやりがいを感じられるでしょう。精神疾患患者の中には社会的入院をされるケースもあり、退院後を見越した看護ケアが重要です。患者さんの退院後も一人一人の生活に寄り添った看護ができるので、そこにやりがいを感じる方もいます。
また、身体疾患を合併している方も多く、精神疾患に関する知識だけでなく、より幅広い知識が身につくという点にやりがいを見出せるのではないでしょうか。
男性看護師が多い
精神疾患を抱えている患者さんは、急に暴れ出してしまうケースがあり、その際に力づくで抑えなければならないので、ある程度の筋力・体力がなければいけません。暴力や暴動など他の科よりも危険が多く、給与として危険手当が支給される施設もあります。
また、患者さんの中には看護師との日々のコミュニケーションの中で、看護師に対して恋愛妄想してしまうケースもあります。女性看護師ばかりだとリスクが高まるので、男性看護師が多いというわけです。
コード類・刃物に敏感になる
精神科では点滴チューブや注射針による自殺のリスクがあります。医療器具に関わらず、電源コードや刃物を身近に置いてしまうといつどのような事故が発生するかわからないため、常に意識して管理徹底しなければならないので、コード類や刃物に敏感になります。
鍵の開閉をしてしまう
精神科病棟は出入り口を施錠している施設が多くあります。精神科にとって施錠には重要な役割があるからです。
「精神疾患患者は他人に危害を加える可能性が高い」と思われがちですが、「自分自身」に危害を加える患者さんが多くいます。勝手に病棟を抜け出して一人になり、自分に危害を加えてしまわないように出入り口の施錠を徹底しています。
そのため、無意識に鍵の開閉が癖づいてしまう看護師さんが多いのです。
精神科看護師は医師との距離が近い
患者さんの日々の様子を頻繁に見ているのは看護師なので、医師が診察時間以外の状態を看護師からヒアリングし、状況を把握する必要があるため、日頃から医師と看護師間のコミュニケーションは他の科よりも多いように感じます。
精神科の看護師が病むって本当?
心のケアの一環として患者さんの話をよく聞き、コミュニケーションを取ることは精神科看護師の重要な役割ですが、患者さんのネガティブな話を聞き続けた結果、自分自身の気持ちが落ち込んでしまい、病んでしまう看護師がいます。
また、患者さんから暴言や暴力を受ける機会もあるので、最初は軽く受け流せたことが、時が経つにつれて頭から離れなくなり、自信を無くしてしまう可能性も考えられます。これらは精神疾患患者と接している以上免れることができないので、精神的ストレスに弱い方は結果的に病んでしまうかもしれません。
精神疾患による暴言や暴力は、病気の症状なので疾患に関する知識を深め、理論的に考えることで受けるストレスが軽減できます。
また、休みなど日頃からプライベートで気分転換を行い、仕事とプライベートを切り離して気持ちを切り替えることで、嫌なことを忘れられるように対策をしましょう。
精神科の看護師がきついと感じる理由
精神科の看護師がきついと感じる理由にはどのようなものがあるのでしょうか。
- ネガティブ思考になる
- 病棟の雰囲気が暗い
- 施設の方針と合わない
- 身の危険を感じるストレス
- 患者さんの態度に疲れる
以上の理由により、「きつい」と感じてしまうケースが多いです。
想像していただくとわかると思いますが、うつ病の知人がいたとして、毎日ネガティブな発言をされ、自殺を図ろうとされたり、暴言や暴力をされたらしんどいと感じてしまう方も多いのではないでしょうか。患者さんは家族でも友人でもないですが、気持ちを割り切って考えられない方にとってはかなりきつい仕事になるといえるでしょう。
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精神科の看護師は病む!まとめ
これまで精神科看護師の仕事内容や役割、メリット・デメリットなど詳しくみてきました。
精神科看護師は患者さん一人一人と向き合い、やりがいを持って看護できる素晴らしい仕事であることをわかっていただけたのではないでしょうか。
ストレス社会である現代において、精神疾患を抱えている患者さんは日々増加し、精神科看護師の需要は増加傾向にあります。今の仕事に満足しておらず、いずれ転職を考えているという方は、今のうちに情報収集しておく価値があると思います。
この記事を読んで、ぜひ精神科看護師としての道を考えてみてはいかがでしょうか。